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2017/04/01

遠くに佇んでいる、白い背中に見覚えがあった。

話しかけるべきなのか、立ち去るべきなのか迷っていた。

つまらない考えが、すぐに幾つか思い浮かぶ。

逡巡するとは、こういう状況を指すのだろう。

話しかけることを選んでいた。

近づいて肩を叩くと、知らない顔だった。

頭を下げて、軽く謝罪する。

緩衝材代わりに、他愛のない会話をいくつか挟む。

微笑んだそいつを見て、ああ、よく出来ているなと思う。


*****


何かを偲ぶために費やす時間は、短くて長い。

コップ一杯分の水を飲んで、眠気覚ましに浴室へ向かう。

吐き気を催すほどの値打もない私の頭の中の真空で、

あと何回繰り返すんですか、と天使が囁く。

それがこの僅かな選択と無作為の代償に他ならないのだとすれば、

思いのほか納得のいくことだった。

2017/03/22

鉱油の馴染んだ歯車が、からからと単調な音を鳴らし始めて、もう幾分か経つ。

灰色の町から、点々と漏れる明りを眺める。

随分と遠くに来てしまったらしいことに、今更ながら気付いていた。

ビルの合間に日が沈んでいくのを感じて、車のライトをハイビームにする。

脇に立てかけられた数々の看板を横目に、黙々と安全運転を続けながら。

 

*****

 

町の片隅の河川敷で、蛍が踊っているのを観たことがある。

あるいは下り電車に揺られて着いた、寂れた地方の公園に行く道すがら。

とにかく草木の茂った通り道があった。

あいつは薄暗い空を見上げて、ここから半日も南東に進めば海岸に着くと言った。

けれどもそこまで行こうとは言わない。

海岸に着いたとしても、帰り道を足したら、往復で距離は二倍になる。

僕達は、網目がへこんだ、どこか頼りない自転車に跨る。

それからはもう何も言わず、帰り道に向けてゆっくりとペダルを踏み出す。


*****


目的地に辿り着く苦労に見合う換算が、そう多くないことを知るのに時間はかからない。

随分と遠くに来てはいたが、それもまた余りある過剰な日々に影を落とすことはない。

車の中で何度目かの音楽が流れる。追想とは無縁の懐かしさ。

見ると、灰皿に放り込まれた吸殻が溢れそうになっていた。

部屋に戻ったら、ビニール袋を持っていこうと思う。

 


I Am Robot And Proud - The Satellite Kids